崖の上のポニョ

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前評判があんまりよろしくないので心配しつつ観にいきましたがとても良い映画でした。

なにより海の描写がすばらしい。宮崎監督の描く、いろんな生き物がごしゃごしゃと生きている絵はほんとに素敵です。スクリーンいっぱいに海の生き 物がそれぞれ勝手に動き回っている感じが素晴らしい。私は磯遊びが大好きなんだけど、岩陰に不思議なかたちの生き物がそれぞれの生態で折り重なったりすれ 違ったりしながら生きているのを見ていると、人間も俯瞰したらこんな感じなのかなーなんて、のんきな気分になれるということが、ひとつの理由として あったりします。そしてそれって、生きてるってそんなに悪くないなって思うことに近いし、この映画の「生まれてきて、よかった」というキーワードに通じて いくものがあるのではないでしょうか。

海をひとつの登場人物として描いたと作品解説にありました。波のうねりが強くて怖かったり、急に水温が変わってぎょっとしたり、波間に黒い影をみ てパニックしたり。そういった海における恐怖を思い出す反面、前述した岩陰の魅力的な世界も同時に想起させるような「海」の表現は、まさにひとつの登 場人物としての存在感をもって迫ってくるものでした。海がひとつの登場人物だという設定も、その設定を全うしていることも新しいし面白いと思いました。

ストーリーはいたって童話的でハッピーなものなんだけど、これをハッピーなストーリーとして観る事のできない人も多いだろうなとは思いました。素 直にストーリーを追う/追わないの分かれ目は、ポニョを何かのメタファーとして見ない/見るに多くかかってくるのかもしれません。見慣れない姿のポニョ を、見知った何かに当てはめることは簡単だから。でも、ポニョは「さかなの子」だと主題歌でも歌っているわけで。相対する存在として人間の少年が配置され ているわけで。きちんとそこには描き分けがあったので、ポニョというキャラクターは、ポニョというキャラクターでしかないのではないかと思います。なんで もかんでも同化して考えるのは想像力に蓋をする行為ではないかとわたしは思います。

童話的でハッピーなストーリーであるからして、つっこもうと思えばいくらでもつっこむ要素のある映画だと思います。と同時に、それをわざわざする ことはないな、と思わせる魅力のある映画でもあると思います。ここ数年、ジブリは確信犯的にご都合主義を映画に盛り込んでいるけど、それって悪いことでは ないと私は思うのです。個人的な妄想を魅力的にアウトプットして、それで人々を魅了するのがフィクションなのだから。ある種の人々は、自分の妄想には寛容 なくせに、他人の妄想に対してやけに手厳しいから不思議です。

宮崎監督が、「不安と神経症の時代に立ち向かおうというものである」と語ったことに対して、ポニョ VS 神経症という誤った対立構造を持ち出して、過剰に反応する層が存在してると感じています。"不安と神経症の時代"に対立するのは、監督のアウトプットの姿 勢なのであって、ポニョ自体ではないです。不安と神経症の時代"に歓迎されるものではない、という自覚をもちながらこの映画を作ったことがすでに表現 の一端なのだから、そこにヒステリックに反応することは、すでに映画に取り込まれているということではないでしょーか。

ポニョという映画は、個人の性質によってとことん評価が異なる映画だと思います。何を見つめるか、何を見過ごすか、という個人の基準 が感想に大きく反映されるように思います。基準となるポイントが、映画を観終わるころにクッキリしてくるような感じがして、わたしはそれがこの映画に込め られた仕掛けなのかな、なんて思いました。映画自体が表層となり、その奥にあるものが突然意味をなす、その感触はなかなか得がたいものだと思います。

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映画と猫と旅行が好きな
70年代後半うまれの女性

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