bee: February 2009 - Archive

シッコ

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マイケル・ムーア監督作品。アメリカの医療保障の問題がテーマのドキュメンタリーです。
帰納法的に映像をつなげて主張へ と纏めていく手法が、他作品に比較してより効果的に作用していた、という印象。コロンバインや華氏911に比較して、よりドメスティックな テーマでありながら、社会保障に対してわりと不安の少ない日本人のわたしが鑑賞しても、感情移入できる映画であるということに感嘆します。

対象への怒りや告発の意図のみではなく、根本に祖国への愛情があるため、アメリカを " 問題まみれの国 " と呆れる一方で、" 希望もあるのかもしれない " と思わされます。ムーア作品に共通する、鑑賞後の " 後味の悪くなさ " は、ドキュメンタリー映画というメディアの質に対して良いものであるかどうかは別として、大衆への問題提起という点でとても有効な表現のあり方であると思います。

ドキュメンタリーというジャンルの映画に、エンターテイメント性を器用に盛り込むことで、鑑賞する層を広げたということが、マイケル・ムーアの一番の功績だと思います。

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★★★★

最近観た映画メモ

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チェンジリング ★★★
クリント・イーストウッド監督。アンジェリーナ・ジョリーのアカデミー助演女優賞ノミネート作品。
母の愛という普遍のテーマと、警察の腐敗や猟奇犯罪というモチーフによりサスペンスドラマとしてのエンターテイメント性をしっかりと両立させた作品。
秀才の90点作品、という感想を持ちました。良い映画だと思うし、これといった不満はないのだけど、「最高!」という感想にならないのは、監督のこれまでの作品が偉大すぎるゆえでしょうか。

寝取られ男のラブ♂バカンス ★
ひどい邦題だねこれ。「ノックト・アップ」のジャド・アパトー製作(監督は別の人)作品。別れた恋人を忘れるためにハワイにいった男が滑った転んだというラブコメ。展開がのんびりしすぎていて途中で退屈してしまいました。コメディはテンポがいのち~。
「40歳の童貞男」のジャド・アパトゥ監督の2作目。ダメ男がクラブで出会ったキャリアウーマンを、うっかり妊娠させてしまってドタバタする映画です。

ジャド・アパトゥは、男の人がウダウダダラダラ好きなことをやってダメに暮らす様子を描くことに、監督的なフェティシズムを持っていると思います。ゆえに超ダメ人間の生活を箱庭的に作るのがとても上手なので、それを覗き見る楽しみこそがこの映画の一番の魅力だと思いました。

ストーリーは、いうなれば"箱庭の箱"に相当している感じなのですが、それも良かったと思います。前作の「40歳の~」は、ハートウォーミング要素を詰め込みすぎた結果、コメディとしては散漫な印象であまり好きではないのですが、この映画はダメ男描写に重点を置いたことで、かえってダメな人に対する監督のやさしい視線みたいなものが鮮明に浮かび上がったように感じました。

スラッカー・ムービー愛好家にはとてもおすすめ。

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★★★

定期的に観たくなるソフィア・コッポラ映画。再鑑賞です。

この映画は、ソフィアの「アントワネットのヴェルサイユでの生活がこうだったらいいな」という、少女的な妄想の結実です。それをどう思うかは完全に好みの問題だけど、わたしは素晴らしいと思います。ソフィアは女の人が持っている、少女のころに夢見たこと、大人になってからはあからさまにはしないけど心のどこかに持っているものを、素晴らしい完成度でかたちにしてくれた英雄だと思います。
もっと言うと、フリルとレース一辺倒だった少女時代の妄想をベースに、その後のポップカルチャーとの出会いを経て複雑化した「お姉さんがたのガーリーな妄想」を、映画にしてくれた英雄だと思います。

つまりやってることは、タランティーノやウォシャウスキー兄弟といっしょ。っていうと男の人は怒るよねー、きっと。わたしはタランティーノもウォシャウスキー兄弟も好きだけど、不可逆かもね。男って狭量ねー。と、ガーリームービー鑑賞直後はだいぶフェミニンな思考になりますね。

歴史映画として観て文句たれてるやつはアホ、と以前のこのブログの一行感想に書きましたが、改めてそう思います。本来、アントワネットはアルコールのたぐいを口にしなかったとされていますが、シャンパンを飲んではしゃぐ場面があるのは、それがガーリームービーとして欠かせない要素だからです。舞踏会では貴族たちがジョイ・ディヴィジョンの ceremony で踊るし、ドレスを選んでいるときにチラっとコンバースのオールスターが映ります。こうしたカットで、ソフィアは明らかに、史実よりもガーリーアートムービーとしての図柄を優先させている、ということをわかりやすく宣言しています。だからその上で、これを歴史映画として観て、文句を垂れてるやつは、ドトールのコーヒーに文句つける本格珈琲好きみたいでアホだな、って思います。

「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」という有名なセリフが、実はアントワネットの発言ではなかった、ということはあまり知られていない事実です。人は、200年も前のマスコミにすら翻弄されてしまう。であれば、アントワネットの暮らしを、ガーリーに仕立て描いた映画にどれほどの罪があるのかと思います。歴史的な浪費の女王として語られる反面、愛らしく夢見がちに語られることがあっても良いと思います。

お姫様、フランス、ドレス、マカロン・・・と、とにかくマッチョなむきには鼻で笑われる要素が満載で、公開当時はずいぶん冷淡なレビューを書いていたレビュアーも多かったなあという印象ですが、同時に、映画の価値はそのモチーフにあるわけではない、という明らかな事実を、この映画に関しては忘れている人が多かったのも事実ではないでしょうか。つまりそれだけ、マリーアントワネットとヴェルサイユ宮殿というモチーフが、無視できない大きなものであるということだと思います。

女性特有の、ふわふわとした夢のような思いを、映像化することはソフィア・コッポラという監督のもっとも得意とするところですが、そのモチーフにマリーアントワネットとヴェルサイユ宮殿という、究極にロマンティックにして巨大なモチーフを選んだこと、その困難に挑んだことが本当に素晴らしいと思います。そういう意味でこの映画は素晴らしいと思います。

その上で、この映画を好む好まないの問題は語られるべきだと思います。

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★★★★★
1960年代のアメリカで許されざる恋に落ちてしまったふたりのカウボーイのおはなし。アカデミー作品賞最有力候補、といわれつつもテーマが同性愛のために「クラッシュ」に作品賞を譲る結果になった、と監督自身がインタビューで語っていたりしたので気になる作品でした。やっと鑑賞。

主人公ふたりが同性愛者である、ということにはあんまり意味がありません。「その時代においてありうる限りもっとも困難な恋愛をする者たち」という意味で同性愛者が物語の主人公になっているのだろうと思います。原作を読んでいないので、もともとの小説の意図はわかりませんが、映画を見た限りではそう感じます。なので、ロミオとジュリエットと構造を同じくする悲恋の物語、として私は観ました。

で、そういう物語の好き嫌いとなると完全に好みの問題で、そもそもまっとうな恋愛映画をあまり好まない(ひねくれ者の)わたしとしてはいまひとつ盛り上がるものがありませんでした。

もうちょっと恋愛以外の要素があるのかと思ったら、そうでもなくて、完全なる恋愛映画だったので、うーん、なんかちょっと、騙された気分。カウボーイハットで、恋愛映画の甘い要素がカモフラされていて、それにまんまと騙されて観てしまった、というようなそんな気分。

ジェイク・ギレンホールもヒース・レジャーも大好きな役者だし、作中の複雑な感情表現も上手だなあって感嘆します。ワイオミングの雄大な自然の美も素敵です。良い映画だと思いますが、好みには合わなかった、という感じです。

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★★
「その名にちなんで」のミーラ・ナイール監督作品。
インドの中流家庭の一人娘の婚礼と、それにまつわる人間模様のドラマです。

インドの湿気た空気感まで伝わってくるような色彩とカットワークがとても素敵です。あと、随所にドタバタしたドリフ的なシーケンスと、マサラムービー的なダンスと音楽のシーンがさりげなく挿入されるのも可愛くて好きです。

家族愛が一応のテーマとして起承転結を支えてはいますが、メロドラマ的なストーリーなので、エンターテイメント性は薄いです。それでも魅力ある映画だと感じる理由には、インドのモンスーンの季節の美しさの切り取りと、そこにある人のいとなみの温かみの活写があるからだと思います。監督自身の、ふるさとと風土への深い愛情を感じます。詩情とおもむきのあるすてきな映画だと思います。

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★★★

Author

映画と猫と旅行が好きな
70年代後半うまれの女性

★Stars

★★★★★
何度でも観たい。
★★★★
おすすめ。
★★★
悪くない。
★★
人には薦めない。

観なきゃ良かった。

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